[会員特別寄稿]
エキストラへの参加
植田 英(いの町) 240号
 突然ですが、皆さんはエキストラに参加した事はありますか?と質問されたら、大半の人は「ノー」と応えるでしょうね。
 でも私は「イエス」なのです。
 それも通行人とかいう役でなく顔と全身がテレビの画面に映ったのですよ、その驚きのエキストラ初体験を自慢させてください。
 私は竜馬ファンで、全国に友がおり、関西にも人脈がありまして、交流会などで京都の竜馬ファンがテレビのエキストラに出演して、面白かったなど話しているのを聞いて、今度出演のチャンスがあったら連絡くれないか、と約束していました。
 後日私の携帯が鳴った。
 一週間後に撮影のチャンスがあるが来ないか?との連絡であった。
 早速退職してぶらぶらしている時期でもあったので、どんな作品なのか、どんな役なのかも聞かずにその場で、「オーケー」の返事をだしました。
 後で分かった事でありますが、作品はテレビ東京開局四十周年記念新春ワイド時代劇「竜馬がゆく」で、二千四年一月二日の放映で十時間放送の大作で、主演の竜馬役には舞台俳優の市川染五郎さんでビッグな作品でした。
 エキストラの出番はストーリーの最大の場面、大政奉還のワンシーンで、デビュー画面としては最高の登場場面です。
 後日指定された京都太秦の松竹映画村に行きました。
 役は諸藩の家老役三十数名の内の一人で、衣装鏡が一列に十台も並ぶ着替え室で、羽織裃、かつらを身に着け、特にかつらをつけるときは床屋さんが私の頭をきつく絞って痛かった、ことを記憶しています。
 同じような衣装に着替えした友人二人と他にエキストラのプロの人や、私のような素人のエキストラが一緒にロケバスに乗せられて撮影場所のある寺院に運ばれました。
 畳が敷いてある大広間に諸藩の家老に扮したエキストラが順次呼び込まれて座らされました。
 コネのない私たちは当然真ん中に座らされました。
 内心、ここでは画面に映らないだろう、と思っていたがそれはしかたないことです。
 ところが、「奇跡が起きた」のです。
 前を見ると、監督らしき人が私を手招きしているではないですか。
 前に来いと判断した私はその人の元へ行くと、最前列の右端の人と交代するように指示されました。
 初めてのエキストラで異例の交代劇に驚きました。
 監督からは演技の事についての指示はなかったですが、隣を見ると、土佐藩家老後藤象二郎役の俳優吹越満さんが座っているではないですか。
 吹越さんはそれなりに家老役のオーラを出していました。
 ここは腹をくくるしかないと思い、まずは落ち着かそうと大きな深呼吸をし、そして胸を張り堂々と、家老に徹しようと腹をくくったのです。
 その後私の右側にテレビ用のレールが敷かれました。
 そこから先は記憶に残っていません。
 アッという間に撮影は無事修了しました。
 私の初出演の画面は市販のDVD「竜馬がゆく」第四部希望篇に、私の横顔のアップと吹越さんと並んで全身がちゃんと収録されています。
 撮影後、担当者から茶封筒が渡され、中には千円の紙幣が三枚入っていました。
 三千円を握り竜馬ファンの二人と一緒に夜の先斗町へと消えていった。